奈良時代の宝物がよみがえる
今、台東区にある上野の森美術館 で、「正倉院 THE SHOW 」が開かれています。 こちらの展示品はすべてレプリカですが、注目すべきは、現代の一流の職人が当時と同じ素材を使って宝物を再現したということです。 さらに今回は、歴史上はじめてランジャタイの香りを体験できるということで、ますます期待が高まります。
日本で一番大きな香木
ランジャタイは、ジンチョウゲ科の木からできた香木です。日本にある香木で一番大きいとされ、長さは156センチあります。正倉院の宝物のなかでも、特に大切に保管され、実物の香りは体験することができません。 展示されていたランジャタイは、2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の撮影で使われたものだそうです。実物大で迫力がありますが、よく見るとプラスチック製でした。
信長がどうしても欲しかった香り
ランジャタイには、いくつか切り取ったような跡があります。そのなかのひとつは、織田信長によるものと言われます。 正倉院の鍵を開けるには、今も昔も、天皇の許可が必要です。手続きは大変込み入っていますが、信長は強引かつ粘り強く働きかけて、ランジャタイを手に入れました。ただ、その目的は香りというより、天皇との関係を世の中にアピールするためだったそうです。
成分を抽出し香りを再現
今回の展示にあたり、ランジャタイも香りのレプリカが作られました。 ランジャタイの脱落片から成分を抽出したあと、調香師がバランスを整えて香りをよみがえらせたそうです。 実際にわたしも嗅いでみましたが、ひとことでは説明できない複雑な香りでした。展示室の案内板には、「五味を兼ね備えた香り」と書いてありましたが、ほんとうにその通り。甘さ、渋さ、辛さといったさまざまな要素が感じられ、何かに例えることはできそうもありません。
銀薫炉は見た目も仕掛けもすばらしい
香りにまつわる展示品はほかにもありました。写真は、銀薫炉といって、着物に香りを焚きしめる道具です。直径は18センチあり、世界でもこの大きさは珍しいそうです。 球のなかには香木を焚く火皿がありますが、羅針盤構造になっていて、どこに置いても水平になるよう設計されています。
訪ねた日:2025/9/24